大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所大法廷 昭和25年(オ)236号 判決 1954年7月19日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由第一点について。

論旨は、原判決が本件農地を控訴人(上告人)の自作地ではなく、小作地であると認定した事実認定を非難するに帰し、上告適法の理由と認められない。

同第二点について。

原判決は、「赤坂村農地委員会が、本件農地について小作人の請求がないのに拘らずその請求があつたものとして改正前の自作農創設特別措置法附則二項、同法施行令四三条により昭和二〇年一一月二三日現在の事実に基づいて買収計画を定めたこと、並びに、被控訴(被上告)委員会が同令四五条を適用し本件買収を相当と認め控訴人(上告人)の訴願を容れない旨の裁決をしたものであること」を認定した上、「右のような事実関係においては、本件農地については右附則二項、同令四三条の規定を適用すべきものではなく、従つて、赤坂村農地委員会が、同法条により買収計画を定めた手続は違法であるから、被控訴委員会はこの点を是正して裁決すべきであつたに拘らず、この点を判明させないで漫然改正前の同法施行令四五条を適用して裁決したことは妥当でない」と判断しながら、しかも、行政事件特例法一一条を適用して控訴人(上告人)の主張を排斥したことは所論のとおりである。そして、右特例法一一条二項によれば、同一項の規定による裁判には、処分が違法であること及び請求を棄却する理由を明示しなければならないものである。しかるに、原判決は、単に一般的に農地買収は公共の福祉のためになされたものであるから正に同法条を適用すべき場合に該当するものと解するを相当とする旨説示しただけで、具体的に本件について処分は違法であるが、処分を取り消し、又は変更することが公共の福祉に適合しない理由について何等首肯するに足りる理由を示していないのである。従つて、原判決は、この点において失当たるを免れない。しかし、改正前の自作農創設特別措置法附則二項によれば、三条一項の規定による農地の買収については、市町村農地委員会は、相当と認めるときは、「命令」の定めるところにより、昭和二〇年一一月二三日現在における事実に基づいて六条の規定による農地買収計画を定めることができるものである。そして、右「命令」である同法施行令四三条は、右期日現在における小作農が農地買収計画を定めるべきことを請求したときは、市町村農地委員会は、当該小作地につき附則二項の規定により同日現在の事実に基づいて買収計画を定めなければならないと規定し、また、同令四五条一項は、同条所定の農地については、市町村農地委員会は、同法附則二項の規定により同日現在の事実に基づいて農地買収計画を定めることの可否につき審議しなければならないと規定しているだけであるから、同令四三条による場合と同令四五条による場合とによつて、市町村農地委員会が買収計画を相当と認める理由を異にするものとは認められない。従つて原判決が同令四三条により定めたと認定した赤坂村農地委員会の本件買収計画を被上告委員会が同令四五条を適用して相当と認め上告人の訴願を容れない旨の裁決をしたことは違法であるとはいえない。されば、上告人の主張を排斥した原判決は、前記理由に依れば失当であるけれども、右の理由により結局正当に帰するから、論旨は採用できない。

同第三点について。

論旨は、原判決が訴外正田不二男において村農地委員又は県農地委員として本件農地買収事件に関与するにあたり特に偏頗な措置をし又は公正を欠く取扱をした事実が認められないとした事実認定を誤認であるというに帰し、上告適法の理由と認め難い。また、原判決がなした「右訴外人は本件赤坂農地委員会が昭和二二年八月一六日樹立した本件買収計画当時同委員会の委員と広島県農地委員会の委員とを兼職しており、本件農地買収異議の採否に関与したことは当事者間に争ないところであるが、昭和二二年政令一三七号四三条の二、附則二項、三項の規定により同年八月三一日まで右兼職が法律上認められていたこと明らかであるから、兼職の一事を以て右関与が違法であるといえない旨、並びに、同訴外人は同年八月一七日同村農地委員会の委員を辞任したことが認められるから、同訴外人が本件訴願申立のあつた同年九月六日以後県農地委員会の委員として本件訴願事件に関与したことも適法である旨」の判示は、当裁判所においてもこれを正当であると認める。

同第四点について。

自作農創設特別措置法は、耕作者の地位を安定し、その労働の成果を公正に享受させるため自作農を急速且つ広汎に創設し、又、土地の農業上の利用を増進し、以て農業生産力の発展と農村における民主的傾向の促進を図ることを目的とする法律であることは、同法一条の規定によつて明らかである。されば、同法による農地の買収並びに売渡は、憲法二九条三項にいわゆる「私有財産を公共のために用ひる」ことに該当すること多言を要しない。また、同法六条三項本文の買収対価は、憲法二九条三項にいわゆる「正当な補償」にあたることは、当裁判所の判例とするところである(昭和二五年(オ)九八号同二八年一二月一二三日民事判例集七巻一三号一五二三頁以下大法廷判決参照。)。それ故、所論は採用できない。

よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

この判決は、論旨第四点後段の点につき裁判官井上登、同真野毅、同斉藤悠輔、同岩松三郎の反対意見(前掲大法廷判決中の反対意見と同一)を除く外裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 入江俊郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例